マツダのスタンダード(第五世代〜)  その3 「2003 AXELA(BK)」

欧州と日本で評価が違い過ぎる・・・

2002年から始まる第五世代においてMAZDAは日本市場の主要モデルの名称を変更した。5ナンバーサイズ上限ギリギリかややはみ出すくらいのサイズのセダンだった「カペラ」が、Dセグ3ナンバーモデルの「アテンザ」となり、さらに下のサイズの5ナンバー小型車(現在のBセグ)「ファミリア」も一気に3ナンバー化して「アクセラ」と変わった。「車格」が変わるのだから名称も変えるというごくごく当たり前のことなんだけど、とことん柔軟性に欠けるカーメディアの連中は「カペラと同じじゃん」などと書いてお茶を濁していたらしい。どーでもいい事を書く仕事と、それにお金を払う読者。これで経済が成長するはずはない・・・これが後世に「バカ過ぎた平成」と罵られることになるんだろう。

 

 

MAZDA3とゴルフが比較される理由

2020年になっても「MAZDA3はゴルフに追いついたか?」とか書いてるメディアありますけど、このBKアクセラは欧州COTYで同じタイミングで登場してきたゴルフと同じ得票で2位となった。しかもただのゴルフではなく8世代あるゴルフの中で初代と並んで最もインパクトがあった五代目ゴルフと肩を並べたわけだ(他者の評価基準で恐縮だけど)。「へーすごいね」じゃなくて、日本メーカーの新型モデルが欧州COTYで現地の最もメジャーなモデルと同等の評価を受けるなんてことは今では考えられない(小型車やエコカー部門ならまだしも)。

 

 

欧州におけるMAZDAの立場・・・

「飛躍し過ぎ!!」って呆れちゃうかもしれないけどさ、1993年のマーストリヒト条約でEUが成立してから、欧州各国の政治原理とはいかに「自国のアイデンティティと影響力を高めていくか」という、今日の米中の対立を見ているような図式がすでに四半世紀前に起こっていた。一気に拡大する経済圏を巡ってそれぞれの「地域」が主導権を争う。独占禁止法が最初からあった日本では業界協調の「護送船団方式」となったけど、あまりにも広くて人もお金も多いEU圏では凄惨極まるM&A合戦による短期決戦が自動車産業にも波及した。

 

 

ナショナリズムと自動車産業

ドイツ統合(1990年)の勢いそのままにオーストリア、チェコ、スロバキアなどの欧州屈指の工業圏を糾合した「ゲルマン」勢力は当然ながらさらに成長を見せる(EUの工場)、他の地域の学者に言わせれば「ドイツによる20世紀で3度目の欧州覇権の野望」というくらいの緊張感を与えたらしい。その様子は主要国の政治的な安定度にも如実に現れている。イギリスでは1997年の政権交代でトニー=ブレアの労働党政権が誕生する。この頃には欧州である種のナショナリズム的な消費行動が見られたようで、自動車産業においても「アングロ=サクソン」勢力に属するローバーや欧州フォードの販売が伸びている。

 

 

アングロ=サクソンの傭兵

欧州の地政学とマツダにどんな関係があるかというと、勘のいい人は気がついていると思うけど、1990年代から2000年頃にローバー、欧州フォード、ボクスホール(英国GM)が技術的にも高く評価され、ゲルマン勢を力強く押し返した背後には、EU外から調達したとても優秀な「傭兵」部隊がいた。いうまでもなくホンダ(ローバー)、マツダ(欧州フォード)、スズキ&スバル(ボクスホール)で欧州メーカーの小型〜中型車の市場において様々な革新を巻き起こした。なんで今も日本だけ自動車メーカーがやたらとたくさん乱立しているのか!?の理由はどうやらここにある。もし日本がトヨタ、日産、ホンダの3社に集約されていたらドイツのように国産車シェアは50%台まで落ちて、日本車の質もグローバル水準まで下がっていた可能性が高い。

チート

ホンダやマツダに関しは、F1やルマンでの活躍だったり、欧州でもNSXやRX7は広く知られていたので、「東洋のスポーツカーブランド」として認知されていて、そんなメーカーが「アングロ=サクソン」勢に参加するなんて、当時の感覚ではチート以外の何者でもなかったことだろう。今で例えればダイハツ車の開発にマクラーレンが参加するみたいなものか!? Vテックってなんだよ8000rpmってもはやフェラーリの手組みエンジンレベルじゃん、こんなものを2万ユーロ程度の市販車に載せるなんて反則!!直噴ターボ、CVT、トルコンATのライセンスがことごとく日本メーカーに押さえられているから、期限切れを待つか、MTのままか、いすゞのパテント切れの自動変速MTを使うしかない。さらにHV技術だと!!勝てるわけねーだろ!!

 

 

バブル日本の開発費は反則

前述した初代アクセラと5代目ゴルフが欧州COTYで同点だった問題の背後には、欧州のパワーバランスを考える上で「仕組まれた決着」だったのではないかと邪推できる。さらに言えば、アクセラとゴルフの技術的な優劣を示す指標としても全く信頼できないものかもしれない。この初代アクセラが使用するフォードC1プラットフォームはこの後のフォードグループの基幹として活躍し、おそらく現在のところ日本で一番たくさん走っているボルボ車のV40や、同じく日本で一番多いランドローバー車のレンジローバー・イヴォークに引き続き使われている。このC1プラットフォームの試作と言えるモデルが、1998年に欧州のCセグで初めてマルチリンクを履いて登場した初代フォーカスだ。

 

 

ドイツ勢は平和的解決を望んだ・・・

初代フォーカスが4代目ゴルフの牙城を徹底的に破壊する前の、1993年にはアコードをOEMしたローバー600が欧州市場を席巻し、窮地に追い込まれたBMWは流石の技術力で1998年に劣勢を一気に挽回するE46系3シリーズを発売。しかしHONDAの不屈の闘志に火をつけるのを恐れて2000年にはローバーを買収して傘下に収めて過当競争化を避けた。

 

 

VWの苦悩

VWも初代フォーカスの襲来に対して、落ち着いて対処策を巡らし、とりあえず技術者ごと欧州フォードの技術を引っこ抜くことを選択。VWって調べると同じようなことを何度もやってます。GMの買い付け部門の役員を引っこ抜いて、資材調達価格の極秘情報を盗んだこともあったらしい。排ガス問題でも、日本のカーメディアを抱き込んで「違法ではない!!」ことを強調してた(違法じゃなかったら罰金は発生しないだろ!!)。

 

 

相手の立場になって考えよう

しかしVWだけが悪いことをしているわけではない。マツダだって過去にマスキー法規制をHONDAに続いて2番目に突破するエンジン作ったけど、規定より濃い燃料を使ったらしい。HONDAの幹部は他社による度々の営業妨害を著書で匂わせてあれこれ訴えている。VWの立場で言うならば、ドイツの8000万人を喰わせるために、あるいはEUの世界的な影響力を維持するためにも、「世界のVW」であり続けなければいけない。そもそも日本メーカーは「ズルい」。極東に偏在するマテリアル産業とインテグレーティッドな関係の中で開発をしているのだから、欧州メーカーよりも優れたモデルを作れて当たり前だ。マッカーサーよ!!なんで日本にも「南北分断」という天罰を与えなかったのか!!・・・くらいに思ってるんじゃないか!?

 

やばい脱線した・・・次回にAXELA(BK)をリベンジします。