マツダのスタンダード(第五世代〜) その4 「2003 AXELA(BK)」

この記事は以下のリンク先の続編になっています。

 

「マツダのスタンダード(第五世代〜) その3 『2003 AXELA(BK)』」

 

欧州の扉を破壊

1980年代からHONDAが仕掛けた高性能グランドツアラーによる世界征服は、アメリカビッグ3の息の根を止め、メルセデスなどの高級ドイツブランドの地位を危ういものにした。メカニカルで高性能という意味では、HONDAレジェンドのスペックは上のカテゴリーのSクラスを圧倒していたし、さらにポピュラーなアコードが採用した足回りに比べてもEクラスの基礎体力は極めて脆弱だった。バベルの塔を建設する勢いのホンダはフェラーリにまでNSXという刺客を差し向けた。OEM供給先のローバーの販売も上昇し、レジェンド、アコードはそのまま英国車としても通用していた。

 

 

自動車産業の頂点は2000年代!?

ホンダに牽引されるようにアルファロメオ、プジョー、マツダの高性能化が進み2000年代にはMAZDA6(GG/GH)、プジョー407、アルファ159は、メルセデスCクラスやBMW3シリーズを追い越し、より「高いステージ」で争うようになった。プレミアムブランドではアウディがドイツ市場でBMWを追い越す躍進を遂げ、その原動力となった高性能サスのアウディA4がそのままシュコダやレオンのモデルとしてノックダウンされた。2010年頃には日産キャッシュカイ&ジュークが欧州市場で大ヒットしセダン市場が縮小・・・。

 

 

世界の頂点!?MAZDA・B系シャシー

マツダにとってはGGアテンザの成功からリーマンショックを挟み2012年のCX-5の大ヒットとアップダウンの激しい時期を過ごしたけど、そんなマツダの屋台骨を支え続けたのが2003年発売のアクセラ。マツダのB系プラットフォームは今もマツダ(第六世代/第七世代)の他にボルボ、フォード、ジャガーランドローバーなどに脈々を受け継がれていて、今ではここまでぶっ飛んだモデルになってしまっている。

 

 

 

活躍の機会

シャシーだけでなくエンジンも懐かしのMZR2.3Lの過給ユニットを使用。2000年代にはアテンザやMPVの他にMSアクセラにも利用されたスポーティなユニットで、今でもフォーカスRSとマスタング(縦置き化)のユニットとして活躍。2000年頃のマツダはフォードから多くの仕事を受注し、世界トップクラスの技術を維持・発展させるのに十分だったとMAZDAの役員も語っている。

 

 

MAZDAの企業価値を「搾取」

グループの中でMAZDAに与えられたミッションは、当時のフォードが作り上げていたブランド連合(アストンマーティン、ジャガー、ランドローバー、リンカーン、ボルボ)で汎用する高品質なシャシーとユニットを、極めて高い競争力を持つ日本メーカーのコスト基準で作ること。余談だけど、「低コスト」という言葉だけを切り取って日本車=低コストと書きまくって喜ぶ自動車ライターやヤフコメのオッサンが多いけど、「コスト低減の能力」にこそ企業価値の多くが詰まっていることすらわからず仕事してるオッサンが日本社会には多いのかもしれない。

 

 

技術屋のジレンマ

2000年代の日産とマツダのエンジン進化は規格外で、それぞれ6気筒、4気筒において世界のトップに位置していた。しかし他のブランドは高効率よりも徹底したモジュラー化に突き進んでいる(低コスト=安物=モジュラーエンジン=輸入車という図式)。結果的に日産とマツダの方針は少々時代錯誤だったかもしれないし、現在の経営状況も芳しいものではない。

 

 

ビジネスの難しさ

スカイラインやGT-R用に開発してきたV6エンジンは、同ブランドのFFシャシーモデルへの転用は絶望的だし、生産拠点も福島のエンジン工場と栃木の車体生産ラインに集約されている。北米で期待されたインフィニティの大型SUVは不振で、代わりに4気筒可変圧縮ターボを積んだFFの北米生産モデルが販売の主体となっている。インフィニティ(フーガ、スカイライン)の次期商品群はなんとびっくりなことに電動化が公表されている。世界の頂点を行っていた日産のエンジンエンジニアにはちょっと不憫な急展開となっている・・・。

 

 

 

日本市場に嵌らないMZR

フォードグループ離脱後のマツダも日産と同じような状況で、自慢のMZRエンジンは欧州や北米ではまだまだ現役ではあるけど、搭載されてきたモデルは、フォードRS、マスタング、ジャガーXE、ジャガーXF、レンジローバーイヴォークの他は、ケータハム、ラディカル、ジネッタなどのガチ勢のレーサーモデルばかり。そんなエンジンがまだまだ主力だった2010年頃のマツダに対して、国内市場のトレンドはアクアやプリウス・・・スポーティであるけど燃費がイマイチ。ガソリンがバカ高い国では売れるわけない。

 

 

負け惜しみ

予想外のリーマンショックで「世界制覇」ビジョンが砕け散った日産&マツダは、その後の日本市場では「貝」のように閉じて、スポーティさを封印したラインナップになるのも仕方ないことだったかもしれない。日産&マツダが高性能エンジンを開発していた頃、メルケルの指示(ボッシュ経由?)でメルセデス、BMW、VW、アウディに対して「次世代規格推奨」が言い渡され1.6LのNA(110ps)と2.0Lのターボ(180ps)がガソリンエンジンの主流になった。いうまでもなくガチガチの「中華規格」だ。行政主導の横並びの開発でいいエンジンなどできるはずもないわけで・・・。

 

エンジン技術のレベルが違い過ぎる?

さすがにルノー日産グループの屋台骨であるので、日本では税制面で微妙な1.6LのNAや、後出しジャンケンで作った可変圧縮の2Lターボが日産においては用意されている。ちなみに1.6Lを積んだシルフィは中華市場でゴルフを超える大ヒットを記録している。日産エンジニアのプライドにかけても、ナメくさった横並びエンジンなどには絶対に負けるわけにはいかない・・・。

 

 

中華エンジン

頑なに1.6Lと2.0Lターボの開発を拒んでいるところからも、マツダの開発陣のただならぬプライド(嫌悪感?)が垣間見られる。ちなみにスバルはどちらのエンジンも持っているが、中国市場では全くやる気を出していない。中島飛行機という歴史が見えない壁となって立ちはだかる。同じように三菱も中国市場では全くクルマが売れない状況だが、三菱のエンジン技術が外務省ODAの一環として中国、韓国、東南アジアのメーカーに広く供与されたことが、中華市場の1.6Lと2.0Lターボという規格のスタート地点になっている。中国メーカーの2Lエンジンはほとんどが86.0✖️86.0mmの三菱と同じボアピッチになっている。

 

 

 

外国人社長

誤解を恐れずに言ってしまおう。たとえ自動車ジャーナリストの全てが批判的であったとしても、2000年代のマツダと日産のクルマ作りは誇り高いものであった。経営的には厳しい局面に追い込まれてしまったが、どちらのメーカーも開発の基礎体力は今も非常に高いレベルを維持できている。外国人社長で21世紀を迎えた両社は、バブルの頃の過剰投資で積み上げた技術をベースに外国人トップが他の日本メーカーにはあまり見られない奔放さでモデル開発を推進したという共通点もある。

 

 

BKアクセラは「モニュメント」

ルノー・クリオとVWゴルフは、今更にいうまでもないけど、2000年代の日産とMAZDAが技術的に成し得たことを受け継いで、2020年現在の欧州市場で販売台数のトップを争っている。中国市場でも日産シルフィとVWゴルフが頂点に君臨している。BKアクセラ自体が欧州で大ヒットを遂げて、ものすごいスピードでグローバル40万台オーバーまで成長し、21世紀のMAZDAの基礎を作っただけでなく、フォード・フォーカスによってその実力が広く知れ渡ったMAZDA・B系プラットフォームは、今も様々なCセグメントシャシーの「ベンチマーク」として生きている。

 

 

 

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コメント: 1
  • #1

    上田 (日曜日, 24 5月 2020 06:52)

    大局観があって分かりやすい解説ですね。ヨーロッパで現在でもCセグメント1位の操縦性を持つフォーカスが、アクセラの兄弟車だということは、日本の自動車史の金字塔ですが、それを誇る気持ちが日本人にないのが残念。